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災害調査 課題名 上ホロカメットク山下降ルンゼ雪崩調査  

2007年12月6日公開
2009年3月1日「雪氷」原稿PDF添付
研究代表者尾関俊浩(北海道教育大岩見沢校)実施期間2007-11-17
研究参加者大西人史(三段山クラブ)
八久保晶弘(北見工業大学)

[目  的]  

2007年11月13日に十勝連峰上ホロカメットク山で発生した雪崩の積雪調査を行なうことにより、発生メカニズムの解明ならびに調査結果から得られた内容を今後の雪崩事故防止に役立てることを目的とする。

[災害の概要]  

11月13日、十勝連峰・上ホロカメットク山(1920m)の標高1819m付近で雪崩が発生し、スキーヤー1名を巻き込みながら標高差約203m、距離にして約444mを駆け下った。巻き込まれたスキーヤーは完全に埋没したものの、同行者の迅速な対応と北海道警察航空隊による救助活動によって一命をとりとめ、事なきを得た。

[実施内容]  

<調査パーティー構成>  

リーダー   大西人史(全体統括・安全管理責任者/雪氷災害調査チーム)
サブリーダー 角波光一(上富良野山岳会)
メンバー   八久保晶弘(積雪調査責任者/雪氷災害調査チーム)
       その他有志協力者3名(うち雪崩当事者1名)

<行動概要>  

2007年11月17日
 9:30 稜雲閣集合
10:00 入山
11:50 デブリ末端到着
13:40 稜線(破断面)到着
14:00〜14:40 破断面にて積雪調査
14:50 稜線出発
16:40 下山・解散

<調査内容>  

1.GPS測定によるデブリ末端位置、遭難者埋没位置、破断面位置の特定
2.雪崩規模の推定
3.破断面の積雪調査<層構造,雪質,密度,雪温,積雪水量>

<調査結果>  

1.GPS測定によるデブリ範囲の特定

上ホロカメットク山下降ルンゼ雪崩GPSデータ(測地系:WGS84)
破断面観測地点北緯43°24'25.29"東経142°40'28.00"標高1819m
遭遇点北緯43°24'26.45"東経142°40'27.47"標高1805m
埋没地点北緯43°24'29.97"東経142°40'17.73"標高1659m
デブリ末端北緯43°24'32.67"東経142°40'13.82"標高1616m
雪崩の破断面からデブリ末端までの標高差203m距離393m(沿面距離444m)
遭遇点から埋没地点までの標高差168m距離245m(沿面距離 286m)

2.雪崩規模の推定
 1. 発生地点 上ホロカメットク山・通称下降ルンゼ 標高1819m付近
 2. 破断面規模(写真から推定) 幅約170m 破断面高さ 最高80cm
 3. デブリ位置 上ホロカメットク山下降ルンゼ 標高1616〜1670m付近
 4. デブリ規模 距離約150m 沿面距離約160m 幅約15〜50m

3.破断面の積雪調査
 稜線直下の破断面付近にて積雪断面観測が行なわれた。写真から判定された調査地点の斜度は約30度である。調査地点の積雪深は75cmであり、破断面の高さは44cmであった。破断面から上方数mには、雪面から滑り面と推定される深さまでクラックが入っていた(写真参照)。このクラックの部分から破断面までの積雪断面を掘り出し、層構造の一様性を確認した。
 積雪層構造の詳細は以下の通りである。図表「破断面での積雪断面構造」「破断面での積雪断面観測結果」を参照のこと。
 積雪表層の73-75cm層はいわゆる「エビのシッポ」であり、雲粒(過冷却水滴)が凍結したものと考えられる。下部はやや空隙が多いのに対し(写真では黒く見える)、上部は緻密かつ粒子は極めて細かい。34-73cm層は極めて一様な風成雪であり、ハードスラブを形成し、鉛筆が刺さらないほど硬い。加えて密度が大きく(370kg/m^3)、粒子は極めて細かい。32-34cm層は比較的柔らかいこしまり層であり、31-32cm層は厚さ5mm程度の薄い氷板が存在する。29-31cm層はちょうど雪崩の滑り面に相当する深さに位置し、こしもざらめを主体として骸晶(しもざらめ)を含む弱層である。強度的には指1本が楽に入るほどもろい。19-29cm層はこしもざらめ・しもざらめで構成される「硬しもざらめ雪」であり、霜結晶同士が緻密に連結しているため、丈夫で硬い。11-19cm層は上層とほぼおなじ雪質・粒径だが比較的柔らかい。0-11cm層は分厚い氷板である。
 積雪中の温度分布については、積雪中層が最も温度が低く-10℃以下であり、積雪表層は日射などにより若干温度が高く(約-9℃)、地表面は地熱によって最も温度が高いとは言え、-4℃で凍結している。温度分布に関して特異な点は見られず、融解している積雪層などは存在しない。
 スノーサンプラーによる全水量および弱層上の水量の測定を試みた。観測時間の制約上それぞれ1回ずつの測定しか行われず、測定値は各層の密度データと比較して明らかに過小評価していると思われる。なお、ラムゾンデやプッシュプルゲージによる積雪の硬度プロファイル、およびシアーフレームによる弱層のせん断強度の測定については、観測用具が事前に調達できなかったため、残念ながら実施されていない。

図表  

上ホロカメットク山下降ルンゼ雪崩図.jpg
800x519 354.6KBfracture_cross_section2.JPG
720x480 73.2KB
図1 雪崩の範囲
幅約170mにわたって雪が崩れ、スキーヤー1名を巻き込みながら、急な狭い谷の中を標高差約203m、距離にして約444mを駆け下りった。 スキーヤーは埋没地点に全身埋没した。
図2 雪崩発生地点(上ホロカメットク山・標高1819m付近)
雪崩落ちずに残された雪。ある特定の層(弱層)から上の雪だけが雪崩落ちてしまったことが分かる。
snow_pit_data.jpg
1024x776 38.7KBsnow_pit_summary_0.JPG
720x540 110KB
図3 破断面での積雪断面構造(スノーピットデータ)図4 破断面での積雪断面観測結果
上ホロカメットク山下降ルンゼ雪崩破断面より見下ろし.jpg
640x480 175KB上ホロカメットク山下降ルンゼ雪崩状況写真.jpg
800x533 291.6KB
図5 破断面より見下ろしたところ図6 雪崩発生当日のデブリ状況

fracture_cross_section-1.JPG
720x312 29.4KB
図7 破断面の写真

上ホロ雪崩調査断面観測結果  

No.積雪断面観測結果雪温雪質と雪粒の大きさ密度
観測点上ホロカメ避難小屋付近稜線西側位置(cm)T(℃)上位置(cm)下位置(cm)雪質粒径(mm)位置(cm)ρ(kg・m3)
観測日2007/11/1775-8.87573┼┼0-0.267-70360
観測者八久保晶弘73-9.27334/┼0-0.257-60370
開始時刻14:0070-9.83432//0.2-0.547-50370
終了時刻14:4060-10.73231氷板37-40370
積雪深(cm)7550-10.63129□∧0.5-223-26410
天気晴れ時々くもり40-10.42919□∧1-213-16340
気温(℃)-9.330-9.81911□∧1-2
弱層上の水量(mm)14620-8.6110氷板
全水量(mm)23210-6.5
0-4.0

備考
断面観測は2007年11月13日に発生した表層雪崩の破断面で実施された。
73-75cm層はいわゆる「エビのシッポ」であり、下部はやや空隙があり(写真では黒く見える)、上部はやや緻密。粒子はきわめて細かい。
34-73cm層は一様な風成雪、ハードスラブを形成し、鉛筆も入らないほど硬い。密度が大きく、粒子はきわめて細かい。
32-34cm層は比較的柔らかいこしまり層。
31-32cm層は厚さ5mm程度の薄い氷板が存在。
29-31cm層はこしもざらめを主体として骸晶(しもざらめ)を含む。明らかに柔らかく、指1本は楽に入るほどもろい。雪崩の滑り面とほぼ一致。
19-29cm層はこしもざらめ・しもざらめで構成される硬しもざらめ雪で、丈夫で硬い。
11-19cm層は上層とほぼおなじ雪質・粒径だが比較的柔らかい。
0-11cm層は分厚い氷板を形成している。
写真から判定された、調査された破断面の斜度は30度。
全水量および弱層上の水量をスノーサンプラーで求めたが、時間の制約上それぞれ1回ずつの測定で、明らかに過小評価している。

[成果と効果]  

 雪崩の破断面(発生地点)にて、雪面から44cmの深さに「こしもざらめ」と「しもざらめ」からなる弱層が発見されたこと、また弱層上部には鉛筆が刺さらないほど硬い風成雪(微細な雪粒子が吹雪によって吹き溜まったもの)が存在していたことから、今回の雪崩は乾雪表層雪崩の一種である「ハードスラブ雪崩」であったと判断された。「ハードスラブ雪崩」は報告例が少なく、日本では1994年12月に十勝連峰の通称・OP尾根で発生した北海道大学ワンダーフォーゲル部の事故で報告されている程度である。共通点として、時期が積雪初期であること、しもざらめ系の弱層であること、積雪表層が硬いことが挙げられる。いずれにせよ、今回の調査結果から「このような硬い風成雪(ハードスラブ)であっても直下には弱層が存在しうる」ことが明瞭に示されたと言える。雪質としての「こしもざらめ」および「しもざらめ」は、積雪内に大きな温度勾配が生じたときに形成されるものである。今後の気象データの解析により、この弱層の形成過程および風成雪の堆積過程が明らかになるものと思われる。

 なお、今回の調査に加わった遭難者の一人から「事故が起きた日(11/13)の積雪は調査日(11/17)の積雪ほど硬くはなかった」との証言が得られた。調査結果から、この雪崩における上載荷重のほとんどは風成雪(ウィンドスラブ)であったとみてよいだろう。風成雪は積雪粒子が極めて小さいため、粒子同士が多くの点でお互いに接触し焼結することで急速に強度が増加する。したがって、雪崩発生当時は堆積直後の風成雪でまだ柔らかく、その後急速に硬化した可能性がある。英語圏ではハード/ソフトスラブ雪崩などと用語を使い分けている一方、日本雪氷学会の雪崩分類にはない。過去の文献の調査によると日本でもハードスラブ雪崩と思われる雪崩事故がいくつか認められること(成瀬ほか,1995)、「ハードスラブ雪崩」という用語は既に一般的に使われ始めていることから、今後は日本でも関連用語の定義から検討していく必要があろう。

引用文献
成瀬廉二,中島一彦,杉見創,十勝連峰OP尾根の雪崩(1994年12月3日).北海道の雪氷,14,36-39,1995.

[成果の発表・貢献]  


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