災害調査 課題名 上ホロカメットク山化物岩雪崩調査 
研究代表者 | 尾関俊浩(北海道教育大岩見沢校) | 実施期間 | 2007-11-24〜25 |
---|---|---|---|
研究参加者 | 樋口和生(NPO法人北海道山岳活動サポート) 大西人史(三段山クラブ) 岩花 剛(北海道大学工学部) |
[目 的] 
2007年11月23日に十勝連峰上ホロカメットク山の通称・化物岩付近で発生し
た雪崩の積雪調査を行なうことにより、発生メカニズムの解明と調査結果から得られた
内容を今後の雪崩事故防止に役立てることを目的とする。
[災害の概要] 
2007年11月23日12時5分、十勝連峰上ホロカメットク山(1920m)の
通称・化物岩東側斜面で雪崩が発生。雪崩は標高差約190mを流れ落ち、ヌッカクシ
富良野川の谷底を埋めた。
谷底を歩いていた日本山岳会北海道支部の11人パーティーは上部から落ちてきた雪
崩に巻き込まれた。
雪崩に巻き込まれたものの自力で脱出した同パーティーのメンバーや周辺にいた登山
者がただちに行方不明者の捜索を開始したが、4人が死亡、1人が重傷を負う大惨事と
なった。
亡くなられた4名の方々のご冥福と怪我をされた方の一日も早い回復をお祈りいたします。
(社)日本雪氷学会北海道支部雪氷災害調査チーム一同
[実施内容] 
<調査パーティー構成> 
リーダー 樋口和生(全体統括・安全管理責任者)
サブリーダー 大西人史
メンバー 尾関俊浩(積雪調査責任者)
岩花剛
その他有志協力者4名
<行動概要> 
2007年11月25日
6:30 稜雲閣集合 事前打合せ
7:45 入山
8:30 デブリ末端到着
9:00〜13:50 デブリ周辺にて積雪調査
13:50 デブリ末端出発
14:20 下山
14:30〜15:00 下山後ミーティング
15:00〜16:00 記者会見
16:30 解散
<調査内容> 
1.GPS測定によるデブリ範囲の特定
2.雪崩規模の推定
3.デブリ内の積雪調査<層構造,雪質,密度,硬度,雪温,積雪水量>
4.デブリ近傍の自然積雪の調査<層構造,雪質,密度,硬度,雪温,剪断強度>
※当初は、条件が許せば破断面での積雪調査を実施する予定であったが、24日の予備
調査の段階で雪崩走路周辺に不安定な積雪が確認されたことと本調査当日の視界不良
により、安全性を確保できないため破断面での積雪調査の実施を見送った。
<調査結果> 
1.GPS測定によるデブリ範囲の特定
上ホロカメットク山化物岩雪崩GPSデータ(測地系:WGS84) | |||
---|---|---|---|
デブリ脇自然積雪断面観測地点 | 北緯43°24'33.55" | 東経142°39'29.93" | 標高1418m |
化物岩雪崩デブリ断面観測地点 | 北緯43°24'33.29" | 東経142°39'34.84" | 標高1429m |
デブリ上端 | 北緯43°24'33.17" | 東経142°39'36.78" | 標高1440m |
デブリ末端 | 北緯43°24'35.25" | 東経142°39'30.60" | 標高1417m |
2.雪崩規模の推定
- 発生地点 上ホロカメットク山・通称化物岩東側 標高1630m付近
- 破断面規模(写真から推定) 幅約70m 破断面高さ70〜80cm
- デブリ位置 ヌッカクシ富良野川 標高1417〜1440m付近
- デブリ規模 長さ約160m 幅3〜60m
- 走路規模 標高差:約195m 水平距離:約290m 沿面距離:約350m 幅:不明
- 雪崩の破断面からデブリ末端までの標高差 約210m 水平距離約430m 沿面距離約490m
3.デブリ内の積雪調査
調査地点積雪深 約5m 埋没者位置深さ 約3m
調査地点はデブリのもっとも厚く堆積した辺りに相当する.雪質は最下層5cmにしもざ
らめ雪の層が見られたが,それ以外はすべてしまり雪であり,層構造が認められないこ
とからこのしまり雪の層がデブリの層であったと考えられる.全積雪水量は208g/cm^2,
全層の平均密度は440kg/m^3であった.詳細は化物岩雪崩デブリ断面観測(図1)を参照
のこと.
4.デブリ近傍の自然積雪の調査
発生区と同様の北向き斜面を用いた.斜度15度.場所により積雪深に変動があり,0〜
134cm.調査は積雪深の深い場所を選んで行った.
雪質は雪面から下に新雪,こしまり雪,こしもざらめ雪(こしまり雪含む),しまり
雪,ざらめ雪,こしもざらめ雪(ざらめ雪含む)と変化し地面と達した.弱層は雪面か
ら8cm(新雪結晶),20cm(新雪結晶),60cm(こしもざらめ雪・こしまり雪)に見られ
た.また,最下層にあたる110cm付近のこしもざらめ雪(ざらめ雪含む)も剪断強度が小
さく,弱層としてはたらく可能性があった.詳細はデブリ脇自然積雪断面観測(図2)を
参照のこと.
図表 
[成果と効果] 
11月24日に撮影された写真を見る限り、発生区では斜面に残った雪は薄いようである
ことから、積雪の底に近い層が破断し雪崩が起こったと考えられる。さらに、破断面が
広範囲に走っているため、大量の降雪による弱層なしの点発生乾雪表層雪崩の可能性は
低いであろう。デブリには土砂などが混じっていないため、全層雪崩の可能性も低い。
したがって、今回の雪崩は面発生乾雪表層雪崩とみられる。
デブリ近くの自然積雪の断面観測結果によると、積雪深134cmの場所で、弱層の剪断強
度(シアーフレームインデックス:SFI)は雪面から8cmで61kgf/m^2、20cmで36kgf/m^2、
60cmで102kgf/m^2強であった。また、最下層にあたる110cm付近のこしもざらめ雪(ざら
め雪含む)の剪断強度も100〜120kgf/m^2程度と小さく、上載積雪が100cmあるため斜度
15度でも斜面安定度(スタビリティインデックス:SI)は1.5程度と不安定な状態であった。
また、11月13日に発生した下降ルンゼ雪崩の破断面で11月17日に実施した断面観測結
果によると、深さ75cmの積雪の雪面から44cmの位置にこしもざらめ雪(霜ざらめ雪
含む)の弱層が確認されている。
本調査では、破断面での調査を行なっていないため断定はできないものの、これらの
調査結果を踏まえると、積雪の底に近い層がこしもざらめ雪や霜ざらめ雪などの霜系の
弱層を形成し、その層が破壊して雪崩に至ったと考える事ができる。
この推定が正しいとすれば、霜系の弱層は焼結が進みにくく積雪が安定するのには時
間がかかることが予想されるため、上ホロカメットク山周辺のエリアでは、まだしばら
くは引き続き雪崩に対して警戒をする必要があるだろう。
上記の結果に気象データの解析を加え、事故当日までの降雪パターンを加味すれば、
発生区での積雪状態をより詳しく推定する事が可能になると考えられる。
[成果の発表・貢献] 
- 11月25日調査終了後、十勝岳温泉凌雲閣にて記者会見を開いた。
- その他報道機関からの取材に多数対応。
- 2008/3/11 自然災害研究協議会北海道地区防災フォーラム「雪崩災害をなくすには」−雪氷災害調査チームからの報告− にて報告
- 2009/2/28 道北地区雪崩等事故防止セミナー 検証〜上ホロカメットク山雪崩事故
- 2009/11/17 北海道大学「冬山登山講習会」にて報告
「雪氷」2008年11月号速報原稿.pdf
- 2007年11月に北海道上ホロカメットク山で発生した雪崩の調査報告〜北海道の雪氷 No.27(2008) PDF
添付ファイル:







