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2010年1月22日 速報初版公開
災害調査 課題名:尻別岳西方989m峰南斜面 雪崩調査 
研究代表者 | 北海道大学・地球環境科学研究院・澤柿教伸 | 実施期間 | 平成21年度 |
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研究参加者 | 奈良 亘(雪氷災害調査チーム,ノマド) 澤柿教伸(雪氷災害調査チーム,北大・地球環境) 松浦孝之(北海道雪崩研究会) 三鍋良平(北海道雪崩研究会) 小野寺規之(北海道雪崩研究会) 池田慎二(日本雪崩ネットワーク,新潟大学大学院) |
[目 的] 
後志管内留寿都村の尻別岳で2010年1月16日に発生した雪崩の現地調査
注:本レポートは,調査結果のうち,雪崩発生域の破断面観測,ならびに雪崩規模の特定に関して速報するものである. 被災者埋没地点,雪崩堆積域の調査結果,ならびに気象条件などを加えた総合的な内容は,最終報告版としてまとめた.
[災害の概要] 
2010年1月16日15時40分ごろ、後志管内留寿都村の尻別岳南西斜面で雪崩が発生し,山スキーツアー9人パーティのうち女性ガイド1人と男性客1人が巻き込まれた.ガイドは自力で脱出,男性客はほかのツアー客と自力脱出したガイドによるビーコン捜索により40〜50分後に発見・救助され,道警ヘリで札幌市内の病院へ搬送されたが,間もなく死亡が確認された.ほかの8人にけがはなく自力で下山した.
(北海道新聞・共同通信・時事通信・朝日新聞・読売新聞・毎日新聞の報道内容,および女性ガイドからの聞き取りにより記述)
[実施内容] 
2010年1月18日に,日本雪氷学会北海道支部雪氷災害調査チーム,日本雪崩ネットワーク,および北海道雪崩研究会の混成調査隊として現地に入り,デブリ範囲の測量,ならびに,破断面と埋没地点の積雪断面調査を行った.
<行動概要> 
2010年1月18日
9:30 喜茂別ローソン場駐車場集合 10:00 入山 11:30 デブリ末端到達 12:00 埋没地点付近到達 デブリ調査班と破断面調査班に分かれる 12:00〜15:30 積雪調査 15:50 2班合流 16:10 下山 16:30 解散
<調査内容> 
- GPS測定による雪崩範囲と遭難者埋没位置の特定
- 雪崩規模の推定
- 破断面の積雪調査<層構造,雪質,密度,硬度,雪温,せん断強度,上載荷重>
- 埋没点周辺の積雪調査<層構造,雪質,硬度,上載荷重>
<規模> 
発生地点 | 尻別岳西方 989m峰 南斜面 標高969m付近 | ||
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破断面 | 標高969m付近 幅約50m 雪崩層(上部破断面)の厚さ約40cm | ||
デブリ末端 | 標高640m付近 幅約80m | ||
デブリ規模 | 標高差:約130m 水平距離:約400m 幅:約30m〜80m | ||
走路規模 | 標高差:約190m 水平距離:約290m 幅:約50m | ||
雪崩の破断面からデブリ末端まで | 標高差:約330m 水平距離:約620m 沿面距離:約750m 見通し角:28˚ |
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図1 事故現場 | 図3 堆積区より上流を見上げる |
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図2 雪崩発生域 破断面(発生点)から斜面最大傾斜方向(SSE)に流走したのち, 標高770m付近から堆積しつつ沢にそってSWへと向きを変える. デブリらしき起伏に富んだ積雪は標高640m付近まで分布. 埋没点でデブリ幅が最も狭くなる. | 図4 破断面全景(デブリ末端付近より上部調査班を望遠) |
<GPSデータ(測地系:WGS84)> 
破断面観測地点 | 北緯42°46'20.4" | 東経140°54'00.3" | 標高969m(現地計測) |
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埋没点 | 北緯42°46'05.7" | 東経140°54'01.5" | 標高695m(現地計測) |
デブリ末端 | 北緯42°46'00.9" | 東経140°53'52.2" | 標高640m(現地計測) |
<破断面観測> 
場所(Location) | 北海道,尻別岳 | 観測点(Point) | Random | ||
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観測者(Observer) | IkedaS | 日付(Date) | 100118 | 時刻(Time) | 1420 |
斜面斜度(Incline) | 37 | 斜面方位(Aspect) | S | 標高(Elevation) | 969m |
風速・風向(Wind) | C | 天気 (Sky) | 降水状況(Precip.) | S-1 | |
気温(Air Temp) | -6.8(℃) | 雪面温度(Surface) | -0.8(℃) | タイプ(Type) | FL |
靴底貫入度(Foot Pen) | 40cm | 積雪深(Snowpack) | 129cm | ||
メモ(Memo) | 尻別岳雪崩(100116発生)破断面での観測。雪崩の原因となった弱層は表面から深さ74-77cmにあるこしもざらめ(4f)。 |
![]() 図5 破断面のスノープロファイル N42°46'20.4" E140°54'00.3" 標高969m 日本雪崩ネットワーク提供 記号・用語については下記を参照 -積雪分類の用語集 -観察と記録のガイドライン | H (cm) | T (℃) | |||
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1 | 129 | -0.8 | |||
2 | 120 | -2.5 | |||
3 | 110 | -4.6 | |||
4 | 100 | -5.8 | |||
5 | 90 | -5.3 | |||
6 | 80 | -4.5 | |||
7 | 75 | -4.3 | |||
8 | 70 | -4.0 | |||
9 | 60 | -3.5 | |||
10 | 50 | -2.6 | |||
11 | 40 | -1.6 | |||
12 | 30 | -1.0 | |||
13 | 20 | -0.2 | |||
14 | 10 | -0.1 | |||
15 | 0 | 0.0 |
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図6 破断面を含む断面 (ホールライン方向) 雪崩層(上部破断面)の厚さ約40cm 雪崩の原因となった弱層は, 表面から深さ74-77cmにあるこしもざらめ(図8) 記載については図5を参照 | 図7 破断面 雪崩層(上部破断面)の厚さ約40cm |
![]() | 図8(左) 弱層となったこしもざらめ (表面から深さ74-77cm) (メッシュは3mm) |
<気象> 
![]() | 図9 喜茂別アメダス気象データ 【雪崩発生前の推移】 2010年1月12日〜13日早朝の冷え込みに引き続き、 1月13日夜以降1月16日14時までに降雪があり, 約40cm(84cm→123cm)の積雪増があった。 【雪崩発生後から調査までの推移】 雪崩発生直後の16日18時から調査前日の17日午前中 にかけて-20度前後まで著しく冷え込んだ. |
[成果と効果] 
今回の雪崩は,面発生の乾雪表層雪崩である。
本調査では破断面を確認して断面観測を行うことができたため、こしもざらめ雪の弱層となった積雪層を確認することができた。これにより,旧雪内の弱層が崩壊したことによって雪崩となったものと判断される。
また,雪崩発生から二晩が経過し,発生後の降雪あるいは飛雪によって堆積区のほとんどの範囲が埋雪していたが,被災者の埋雪位置およびデブリの範囲をほぼ確認することができた。
今後は、調査結果に気象データの解析を加えることにより、発生に至った気象条件と積雪状態の関係を検討していく予定である。
[成果の発表・貢献] 
- 2010年6月9日:雪氷学会北海道支部研究発表会にて報告
添付ファイル:









