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2011年6月28日 公開
災害調査 課題名:ニセコアンヌプリ西方斜面 積雪調査 
研究代表者 | 北海道大学・低温科学研究所・兒玉裕二 | 実施期間 | 平成22年度 |
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研究参加者 | 佐々木大輔(雪氷災害調査チーム,ノマド) 奈良 亘(雪氷災害調査チーム,ノマド) 兒玉裕二(雪氷災害調査チーム,北大・低温研) 荒川逸人(雪氷災害調査チーム,野外科学) 澤柿教伸(雪氷災害調査チーム,北大・地球環境) |
[目 的] 
ニセコアンヌプリ西面で2011年1月1日に発生したスキーヤー死亡事故の現地積雪調査
[災害の概要] 
2011年1月1日午前11時ごろ、男女2名が山スキーをするため後志管内ニセコ町の五色温泉の登山口からニセコアンヌプリ(1308m)に向けて入山し,下山途中の13時半ごろに男性の行方が分からなくなった.2日午前10時ごろ,女性からの通報を受けて捜索していた道警の山岳救助隊員が,行方不明だった男性が雪に埋まって倒れているのを山頂西側斜面の谷底標高950m付近で発見.病院に搬送したが、死亡が確認された.
(新聞の報道内容により記述)
[実施内容] 
1000台地から斜面での積雪観測のA班(奈良,澤柿,荒川)とデブリ観測のB班(兒玉,佐々木)に分かれた.事故発生以降,新雪が20〜30cm程度積もっていたため,破断面・走路は発見できなかった.また,デブリの範囲も特定することはできなかった.そのため,A班では埋没地点から最大傾斜方向である斜面における積雪断面観測の実施となった.B班では,埋没地点の確認後,デブリ範囲を可能な限り特定する作業となった.
<行動概要> 
- 2011年1月3日
- 8:30 ニセコモイワスキー場着
- 9:00 五色温泉到着
- 9:30 入山
- 10:30 標高1000m台地到着,二手に分かれる
- 14:30 合流
- 15:50 下山
- 16:30 ニセコモイワスキー場・事情報告
<調査内容> 
- A班<斜面の積雪観測>
- 調査項目<層構造,雪質,密度,硬度,雪温,せん断強度,上載荷重>
- B班<デブリ周辺の積雪観測>
- 遭難者埋没位置の確認
- 埋没点周辺の積雪調査<層構造,雪質>
調査結果 
<雪崩の規模> 
発生地点 | 不明:確認できず |
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破断面 | 不明:確認できず |
走路 | 不明:確認できず |
デブリ | 埋没地点を確認,断面観測により部分的にデブリの位置を特定 |
雪崩の種類 | 不明 |
<斜面の積雪観測結果> 
- 斜面積雪の調査位置
調査箇所 観測年月日 観測時間 緯度 経度 標高 勾配 A1地点 2011年1月3日 14:15〜15:00 北緯42°52’23.91” 東経142°39’12.56” 1100m(地図計測) 39°(現地計測) - 断面観測結果
- A1地点:積雪深は未測定.深度90cmより下は笹が露出.
深度(cm) 雪質 粒度 備考 00-13 新雪・こしまり雪 0.1-0.2 粒子は破壊されている 13-25 新雪・こしまり雪 0.1-0.2 上層と層の色がやや異なる 25-27 ざらめ雪・こしもざらめ雪 0.5-1.0 クラストした層の一部が霜化している 27-30 こしもざらめ雪 0.5 汚れ層 30-90 こしもざらめ雪 0.5 - - 雪温(A1地点):
深度cm 雪温 �C 0 -10.4 10 -10.5 20 -10.0 30 -10.0 40 -9.1 50 -8.9 60 -8.3 70 -7.5 80 -7.0 - 密度(A1地点):層構造ごとに密度を測定.位置は密度サンプラーの底面の位置で記述.
深度cm 密度 kg/m^3 備考 9 60 23 100 27 230 クラストの層と新雪・こしまり雪の層を含む 27 360 クラスト層の密度(計算値) 40 300 - 硬度(A1地点):
深度cm 硬度 kPa 7 2.8 16 4.0 24 24.5 27 15.7 38 23.8 45 27.4 50 25.3 55 27.7 60 29.0 65 16.6 70 15.3 - 層構造(A2地点)
積雪深は未測定.A1の深度27cmに相当する層までの積雪断面.深度(cm) 雪質 粒度 コメント 00-13 新雪・こしまり雪 0.1-0.2 粒子は破壊されている 13-14 ざらめ雪・こしもざらめ雪 0.5-1.0 クラストした層の一部が霜化している.弱層 14-20 新雪・こしまり雪 0.1-0.2 上層と層の色がやや異なる 20-22 ざらめ雪・こしもざらめ雪 0.5-1.0 クラストした層の一部が霜化している - シアーフレームテスト(A2地点)
13-14cmのクラストが弱層となった可能性を示す.ただし,A1地点ではこの層は顕著でなく,弱層は斜面上に部分的に形成されていたと考えられる.測定位置 13-14cmのクラスト層の上 20-22cmのクラスト層の上 備考 破壊の力 N 4.1 43.7 面積 cm^2 250 250 SFI 1.67 17.8 鉛直荷重g/cm^2 0.78 1.58 A1地点の層ごとの密度測定から推定 斜面方向荷重g/cm^2 0.49 0.99 勾配 39° SI 3.4 17.9
<埋没地点周辺での積雪調査> 
- 埋没地点位置
埋没地点 北緯42°52’17” 東経142°39’10” 標高950m(地図計測) - デブリ範囲
確認できた範囲で,埋没地点から上流側約13m,下流側80mの長さであった.デブリの幅は未確認であった.上流側で4地点積雪層構造を確認し,B3とB4では層構造の乱れを確認した(赤色のデブリを含むしまり雪の層).B1とB2では層構造の乱れがみられなかった.
<気象> 
A2地点の層構造と倶知安アメダスの気象を比較し解析をおこなった.
- 新雪・こしまり雪(0-13cm)
事故発生後から調査日までの降雪によるものと考えられる. - ざらめ雪・こしもざらめ雪(13-14cm)
12月30日から31日にかけての日射による内部融解,夜間の放射冷却を経て,クラスト化およびこしもざらめ雪化が進行した.これが弱層になったと考えられる. - 新雪・こしまり雪(14-20cm)
12月29日の降雪 - ざらめ雪・こしもざらめ雪(20-22cm)
12月27日から29日にかけての日射による内部融解,夜間の放射冷却を経て,クラスト化およびこしもざらめ雪化が進行した.調査日においては弱層ではなかった.
- 気象データからは不明な点
弱層形成後から事故までの間において,気象データでは降雪・降水はほとんどみられないため,弱層の上載積雪を説明できない.12月31日から1月1日にかけて,北〜北北東の3〜6m/s程度の風が吹いていたことから,山岳域においては吹溜りが形成されていた可能性が考えられる.
[成果と効果] 
- 事故後の降雪により,雪崩の種類や規模の特定ができなかった.
- 調査・解析より,事故より前に弱層が形成されていたことが考えられた.
- 上載積雪についての説明が充分に立証できなかった.
- 改めて,事故直後の迅速な調査が必要であると認識された.関連機関との連携強化が必要である.
[成果の発表・貢献] 
- 2011/5/16 「2011年1月にニセコアンヌプリで発生した雪崩の調査報告」 2011年度雪氷学会北海道支部研究発表会
- 2011/6/26 「1月ニセコアンヌプリ雪崩報告」 第13回北海道雪崩研究会
- 2011/10/16発行 「POWDERSKI 2012WINTER」(実業之日本社,2011/9/16発売)へ取材協力
添付ファイル:











