履歴
2013年4月25日13:00 Ver.1公開
2013年4月25日18:00 Ver.2公開(字句の訂正)
2013年4月26日18:00 Ver.3公開(表現の修正)
災害調査 課題名
研究代表者 | 北海道大学・澤柿教伸 | 実施期間 | 平成25年度 |
---|---|---|---|
研究参加者 | 調査隊リーダー及び研究班リーダー:澤柿 研究班:杉山、荒川 ガイド班リーダー:大西 ガイド班:田中(三段山クラブ) |
[目 的]
2013年4月23日早朝に富良野岳北尾根下部三峰山沢底で心肺停止の状態で発見された男性が,発見前日(22日)に巻き込まれたと思われる雪崩の調査.
注)数値等は速報値であり,本報告までに変更される可能性がある. 本速報中に「弱層」「すべり面」「破壊面」などの表記が用いられているが,今後みなおす可能性がある. 本速報において上記で表記されている深度が複数あるが,これらについても整合的な記載・解釈を検討中で, 今後修正される可能性がある.
[災害の概要]
2013年4月22日に日帰りの予定でスノーボードをするため富良野岳に入山した札幌市の会社員(42才男性)が夜になっても帰宅せず、妻が警察に通報。
23日早朝から警察や友人らが捜索を行った結果、午前5時20分ごろ、三峰山沢底部で男性がスノーボードを付けたまま雪に埋もれ心肺停止の状態で倒れているのを発見。
午前7時前に道警のヘリコプターで病院に搬送後,死亡を確認。
男性は単独行で目撃者がなく,現場の状況から22日に雪崩に巻き込まれたとみられる。
[実施内容]
2013年4月23日に,日本雪氷学会北海道支部雪氷災害調査チームとして現地に入り以下の調査を行った.
- GPS測定による雪崩範囲と遭難者埋没位置の特定
- 雪崩規模の推定
- 破断面の積雪調査<層構造,雪質,密度,硬度,雪温,せん断強度>
大西・田中:
- 1300破断面付近到着
澤柿・杉山・荒川:
- 1100札幌発
- 1330バーデン上富良野着
- 1400大西・田中と合流
合流後:
- 1430バーデン上富良野発
- 1450デブリ末端(埋没地点)着
- 1510破断面着(標高1060m地点) 調査開始
- 1640調査終了 下山開始
- 1720下山
- 1750凌雲閣へ移動しながら雪崩斜面を遠望観察
- 1810凌雲閣でミーティング
- 1930凌雲閣解散
[成果と効果]
<雪崩の概要>
- 測定日時:2013/04/23 15:11〜16:38
- 面発生 乾雪表層雪崩
- トリガーはスノーボーダー
<規模>
破断面(調査地点) | 緯度 | 43°24′41.44″ | 経度 | 142°37′55.16″ | 標高 | 1,190m |
---|---|---|---|---|---|---|
方位 | 北東 | 長さ | 25m | 厚さ | 25〜35cm(すべり面は35cm深) | |
斜度 | 43° | 雪質 | 新雪-こしまり 降雪結晶 径0.5-1.0mm(写真参照) | |||
破断面からデブリ末端まで | 距離 | 168.5m | 標高差 | 117m | 走路の幅 | 20〜35m |
埋没地点の位置 | 緯度 | 43°24′46.18″ | 経度 | 142°37′58.18″ | 標高 | 1,073m |
<写真>
地図1.富良野岳北尾根雪崩範囲図 | 地図2.富良野岳北尾根雪崩範囲拡大図 |
背景地図等データは国土地理院の電子国土Webシステムを利用した | |
写真1.雪崩範囲写真 | 写真2.破断面(標高1,190m) |
写真3.積雪断面の写真.写真右側の縦が破断面 | 写真4.降雪結晶 (径0.5-1.0mm) 破断面でのコンプレッションテスト2で 破壊した層(雪面から25cm下の層)から採取 |
<コンプレッションテストの結果>
- 雪崩に遭遇したスノーボーダーのエントリー地点で実施(写真5)
CTM15(RP)down30cm,16(RP)down25cm(同一箇所)
(肘から先を振り、15回、16回叩いて、それぞれ雪面から30cm、25cm下で破壊した) - 破断面で実施
CTM13(RP)down25cm,17(RP)down33cm(同一箇所)
(肘から先を振り、13回、17回叩いて、それぞれ雪面から25cm、33cm下で破壊した)
RP(Resistant planar)レジスタント・プレーナー (破壊の特徴:1回もしくはそれ以上のタップで、平面もしくは概ね平面の破壊が起こるが、ブロックはたやすく前に出てこない)
<積雪断面観測>
- 破断面(写真2)の最上部において積雪断面観測を実施.
- 積雪深332cm
このうち表層60cmについて記載.
層位
深さ (cm) | 状態 | 粒径 (mm) | 備考 |
表面 | 新雪 | 0.5 | |
---|---|---|---|
0.0~2.0 | クラスト | 2.0 | 日射の影響でクラスト |
2.0~35.0 | 新雪・こしまり | 0.5-1.0 | ・表面から35cmまでほぼ一様な新雪-こしまり雪. ・その層内で,12cm深と25cm深付近に,指先の 感触でようやくわかる厚さ1cm程度のやや柔らか い層があった。 |
35.0~37.0 | ザラメ | 35cmより下はこしもざらめ雪とざらめ雪の互層 | |
37.0~45.0 | こしも | 0.2-0.5 | |
45.0~46.0 | ザラメ | 1.0 | |
46.0~50.0 | こしも・ザラメ | 0.5-1.0 | |
50.0~60.0 | ザラメ | 1.5 | |
60.0~332.0 | 未観測 |
深さ (cm) | 密度 (kg/m3) | 温度 ˚C | 深さ (cm) | PP硬度 (kPa) | |
0 | -0.05 | 0 | |||
---|---|---|---|---|---|
10 | 140 | -0.02 | 5 | 5.092958179 | |
20 | 180 | -0.30 | 10 | 4.668544997 | |
30 | 180 | -0.49 | 15 | 2.75868568 | |
40 | 260 | -0.54 | 20 | 5.941784542 | |
50 | 250 | -0.33 | 25 | 5.729577951 | |
60 | 270 | -0.25 | 30 | 7.639437268 | |
70 | -0.09 | 35 | 8.912676813 | ||
80 | -0.06 | 40 | 79.78967814 | ||
90 | -0.02 | 45 | 25.04037771 | ||
100 | -0.04 | 50 | 18.88638658 | ||
55 | 25.2525843 | ||||
60 | 41.3802852 |
- 温度
- 新雪層で若干氷点下
- 表面と新雪層より下層でほぼ0℃
- 密度
- 新雪層で140-180kg/m3
- ざらめ雪-こしもざらめ雪では250-270kg/m3
- 全体的に密度が小さい
- 硬度
- 新雪層で2.8-8.9kPa
- ざらめ雪-こしもざらめ雪では18-90kPa
- SI
- 硬度をせん断強度=0.018☓硬度^1.18に変換
- 密度から上載荷重を推定
- 勾配43度
- 新雪層の大部分でSI<1.5となった
<シアフレームによる積雪面のせん断強度測定>
- 手法
- シアフレームとプッシュプルゲージを用いて、積雪層内のせん断破壊強度を測定した。
- まず測定面の上にシアフレームの厚さ(4cm)と同じ厚みの雪を残して、積雪表面を斜面に水平にならす。
- その表面から、フレームの下面が測定面と一致するようにシアフレームを挿入した。
- フレーム前面の雪を除いた後、プッシュプルゲージによってフレームを手前に引いて、破壊に要した力を測定する。
- 測定は各測定面に関して3回行った。
- シアフレームの試験面積は250 cm-2、プッシュプルゲージの分解能は10 gである。
- 測定された値はフレームの試験面積を用いて応力値に変換した。
- 測定箇所の記載
- 表面付近のクラスト下から深さ32 cmのざらめ雪までの間は、一見均質に見えるこしまり雪によって構成されている。
- 破断箇所は,一旦高さ24cmのステップ状に切れて,さらに35cm深のすべり面へと至っていた。
- この24cm深において最初のシアフレームテストを実施。
- 以後,概ねシアフレームの高さ4cm間隔でざらめ層直上まで測定。
- すぐ横に場所をずらし,断面観測で確認された14cm深のやや柔らかい層準とその下18cm深でも測定。
- 結果
- 24cmのステップでは、平均せん断破壊強度は0.52 kN m-2となり、
その上下の層(18 cmで1.02 kN m−2、28 cmで1.09 kN m−2)と比較して約50%の強度であることが判明した(上表および上図)。 - 24cm深を除くと、こしまり雪層内は比較的均一な破壊強度を示している。
- こしまり雪層とざらめ雪層の下、36cm深では3.14 kN m−2と大きな強度が得られた。
- 24cmのステップでは、平均せん断破壊強度は0.52 kN m-2となり、
その他
- 今後、大西・阿部が聞き取り調査を行う予定.
[成果の発表・貢献]
「降雪結晶」について
- この冬のいくつかの事例について、中村・秋田谷で5月17 日〜18日の支部研究発表会で報告予定。
- 啓発を意識したまとめ。
- 低気圧前面の降雪結晶による弱層形成(秋田谷、中村)
表層雪崩は積雪内部の弱層が原因である。 弱層には霜系(表面霜、しもざらめ)と降雪系(雲粒のない降雪結晶, 中村ら, 2009)が知られている。 両者は壊れやすい雪である。 2012/2013冬季に札幌で新雪層の雪粒子を撮影した。 低気圧が北海道に接近したとき特徴的な雲粒のない降雪が複数事例観測された。 これらの粒子を数日追跡撮影した。 各事例とも結晶の変態が遅く、弱い状態が続いていた。 過去の事例の雪 粒子写真を交え、降雪結晶による弱層形成について考察する。
- 降雪系弱層形成時の気象の特徴(中村、佐藤、秋田谷)
今冬に十勝連峰で起きた2つの雪崩事故(12/16 ([[事例/2012/12-16三段山]]), 3/28 (http://nadare.jp/2013/03/130328.html))は降雪系弱層が原因であった。 このことからも、降雪系弱層が原因となる表層雪崩の危険度を予め把握 することが重要であることがわかる。 2012/2013冬季に札幌で降雪、積雪の観測を行った。 低気圧が北海道に接近した 時に温暖前線に相当する層状雲から降る特徴的な雲粒のない降雪が複数事例認められた。 これらの粒子を数日間追跡観測したところ、積雪内で弱層を形成していた。 WRFモデルを使った気象解析、アメダスデータ、天気図、気象衛星画像等を用いて各事例の気象条件を考察し、降雪系(雲粒のない降雪結晶)弱層形成時の気象の特徴を抽出した。
- HTBイチオシMikioジャーナル2013.12.2放送
http://www.htb.co.jp/mikio_journal/newsvod/1312/m_journal131202.asx
なだれの事故を防げ!なだれのメカニズム 動画再生300kbps
2012年北海道で4件の雪崩事故が起き、3名が死亡した。公益社団法人日本雪氷学会北海道支部の「雪氷災害調査チーム」は、これらの雪崩事故を調査した。なだれは、雪の中の弱い部分、「弱層」が破壊され起きる。4件のなだれ事故の原因となったのは、すべて降雪結晶と呼ばれるきれいな雪の結晶だった。防災科学技術研究所の中村一樹研究員が、降雪結晶が降るメカニズムを研究。温暖前線をともなった低気圧が接近する時に降ることを明らかにした。知られざるなだれのメカニズムに迫る
添付ファイル: 富良野岳北尾根雪崩範囲図(S).png 富良野岳北尾根雪崩範囲拡大図(S).png 破断面.jpg 雪崩範囲写真.png 弱層(降雪結晶).JPG コンプレッションテスト.jpg シアーフレームテスト.jpg shear.jpg P4230085.jpeg 20130422.jpg