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CAA *1の機関誌である『CAA
Journal』にJANとの協力関係10周年に関する記事が掲載されました。記事の主要部分を翻訳し、下記に掲載致しました。
記事はCAAとCAC*2、両方のエグゼクティブ・ディレクターを務めるIan Tomm氏によるもので、氏は過去2回、 Training School
Level 1 の講師として来日しています。なお、記事ではJANの 沿革 と雪崩入門書『
雪崩リスク軽減の手引き 』の紹介もされています。
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Ten years under the rising sun (日本との10年)
今年、もう一つ重要な周年記念を祝う
日本との協力関係10周年
Ian Tomm
2011年はCAAの30周年記念と同時に、私たちの仲間であるもう一つの団体にとっても、重要な道標が刻まれた年である。今年は、CAAがパートナーシップを結んでいるJANの10周年に当たる。CAAが日本で取り組んできたことは、過去の『CAA
Journal』の中でも幅広く紹介されてきたが、10年前に日本で何がスタートし、現在、彼らが何をしているのかについて、少数のメンバーしか認識していないと思う。
彼らの歩みは堅実で、CAAのモデルを元に築いてきた基盤は、今では日本独自のものとして存在する。JAN
は我々のメンバーであり、理事長である出川あずさによって多くの困難な仕事を成功させ、今後の成長への準備も整っている。
2010-11シーズンの日本は、鳥取県にある奥大山スキー場で4人のスキーパトローラーが雪崩に巻き込まれ、死亡する事故で始まった。これは短時間で60cmもの降雪*3
があり、スキー場で雪崩が発生したことによる。4人が雪崩現場の確認に行った際、二次雪崩に遭遇したのだが、4人はビーコンを装着していなかった。
この事故は、JANが直面する雪崩安全の課題を浮き彫りにしている。多くの死亡事故にはパターンがある。基礎的な雪崩アウェアネスの不足であり、適切な安全装備の欠如である。そして今回の事故のように、それはプロフェショナルの現場でも起きている。とはいえ、この悩ましいパターンは、JANの成長とこの国で訓練を受けた人たちや講師などによって改善されていくだろう。
2001年以来、JANはCAAのプロフェショナル・スタンダードを、多くの受講生に教えてきた。これに合わせて、彼らは情報共有のネットワークを構築した。これは雪の基本的な情報である雪崩、気象、地形などをネット上で共有する" 雪の掲示板 "(Info
EX*4とほぼ同様)と、"SPIN"と呼ばれる積雪の断面観察記録をグラフ化し、閲覧できるJAN独自のシステムである。
両サイトの情報は、一般の人も閲覧が可能だが、JANでトレーニングを積んだメンバーによってデータの更新が行われている。この情報共有ネットワークは、過去数年をかけて充実してきており、この冬から始まる日本で初となる標準化された一般向き雪崩情報*5
のバックボーンとなるだろう。
これらはカナダで起きたパラダイムの日本バージョンである。つまり、標準化されたガイドラインを用意し、トレーニングによって標準化されたものの適切な理解と適応を促し、メンバーシップによる観測者のネットワークの構築し、ウェブをハブとして情報のデータベースを構築する、などである。(JANはCAA
OGRS*6 を使用しており、レベル1や2を毎年開催している)
JANは"雪の掲示板"をデータと雪崩危険度情報の発信場所へと変化させようとしており、それと同時に、プロフェショナルに対する能力開発のリソース基地にもしようとしている。この構想は、雪崩情報とそれに関連する項目を定期的に更新するためでもある。これは、CAAのメンバーにとって、JANに貢献する良い機会でもある。
2004年、私は日本でレベル1を教えた。それは日本を訪れた他のITP講師*7が経験したのと同様、とても衝撃的な経験だった。そして2011年、私は再び、日本で教える機会を得た。今回は教えるだけでなく、CAAとJANが緊密な連携関係を続けて10周年であることを、JANメンバーと祝うことも楽しみであった。
最初の日本訪問の時と比べると、今回の受講生は、より専門性の高い人が多いと感じられた。それはカナダでレベル1受講生の意識が進化してきたのとなんら変わりない。彼らは山岳ガイドであったり、スキーパトローラーであったり、教育者、プロのアスリート(スノーボード・アジア・チャンピオンが受講生にいた)などであった。
2004年で記憶に残るのは、受講生は皆、私が今まで教えた中でも最もひたむきに学んでいることだった。2011年でもそれは変わらなかった。そのような受講生と日本アルプスに行けたこと、皆が雪崩の用語を学ぶことに熱心だったこと、そして将来、それらの言葉が日本語として受け入れられることを考えると、私は幸せな気持ちになった。
通訳を介して教えることは、ある意味難しく、気力体力を消耗するもので、他にはないユニークな経験である。雪崩用語がまさにそれで、たとえば「fracture
character(破断の特徴)」「sudden
planar(サドン・プレナー)」をはじめ、その他いくつかの用語は、日本語への直訳がないのである。それゆえ20秒の話が通訳を通すと、文脈を構成し、用語の意味を日本語で説明するため、最後まで辿り着くのに2分ぐらい費やすこともある。
通訳を通して講義することは、忍耐のいる学術的なスキルである。特に林智加子、五月女行徳、出川あずさ、廣田勇介には、私の滞在期間中、多くの難しい通訳をして頂いたので、この場で感謝を伝えたい。
廣田勇介は、2004年の講習時は通訳の一人だった。その後、彼は活動の場をカナダに移し、BC州Nelsonの近くにあるBaldface
Lodgeにて6シーズン仕事に従事した。彼はそこで雪崩に関する優秀なガイドチームや指導者からいろいろなことを学んだ。そして2010年、彼はCAAレベル2
*8をカナダで無事取得することができた。
今回、その廣田は、私の日本での講師仲間であった。また、五月女行徳も同じ講師仲間で、彼は2004年からレベル1の講師を務め、ニュージーランドでトレーニングを積んだスキーガイドであり雪崩従事者である。廣田は、講習期間を通して常に私と行動を供にしつつ、とても深い観察を行っていた。彼が捉えていたのは、標準化された雪崩トレーニングの価値は、ある国のみにあるのではなく、他国間でも共通するというものだ。「雪崩に従事する仕事の最も素晴らしい点は、シンボルを知れば、みんなが会話できる」。
日本でより高度な雪崩予測や意志決定スキルを磨いていく際の大きな課題の一つが、強く均一性のある積雪である。知っての通り、いろいろな気候帯で活動し観察すること、そして多様な積雪状況や雪崩の特徴、行動様式を関連させながら経験を積むことは、とても重要である。本質的に安定している積雪の中だけで学ぶのは難しい。しかし、JANメンバーはカナダをはじめ、その他の国々に積極的に出かけて経験を積み、その学んだことを日本に持ち帰っている。五月女や廣田はその良い例である。
過去10年を振り返ると、多方面からJANを支援してきたCAA 会長のBill Mark、エグゼクティブ・ディレクターのClair
Israelsen、そして出川あずさによって、2001年の時点で初期作業が終了していたのは明らかである。レベル1プログラムの成功、現在、要件を満たしつつある レベル2
プログラムは、カナダスタイルのプロフェショナル雪崩リスクマネジメントのシステムと展望に関心が深まっているからと言えるだろう。JANメンバーのこれまでの努力を称えたい。日本の雪崩安全を改善することへの献身さがなかったのなら、この10年での発展はなかったかもしれないからだ。
では、次の10年で日本はどうなるだろう? 自分達の歴史を振り返ってみると、CAAのプログラムが本格的に稼働するまで、必死に準備して10年掛かっている。CAAが90年代初期に経験したのと同じ局面なのが、今のJANなのだろうか? またJANは今後、成長する10年を見据えているのか? 答えは時間だけが教えてくれるかも知れない。しかし確実に言えることは、CAAとJANの関係は強固で、これからもさらに発展していくのみということだ。次の10年は過去の成功をより発展させ、JANが行う一般向きの雪崩情報や注意喚起、トレーニングやアウェアネスのプログラム改善に焦点が移ることになるだろう。
実際のところ、私たちはthe rising sunの次の10年を楽しみにしている。
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【訳注】
*1:Canadian Avalanche Association
カナダ国内のプロフェショナル雪崩オペレーションを統括する非営利団体。
*2:Canadian Avalanche Centre
2004年にCAAから分離した一般対象の教育と雪崩情報に関わる組織。
*3:近隣アメダスデータで53cm(5時間)
*4:Information Exchange の略。CAAの雪崩関連データの共有システム。
*5:北米標準の5段階に危険度区分された雪崩情報。後日、正式に告知します。
*6:Observation Guidelines and Recording Standards
『気象・積雪・雪崩の観察と記録のガイドライン』
*7:ITP:Industry Training Program。JANのTraining Schoolに相当。
*8:JANのTraining School Level 2 Module B に相当。
【補足】
1995年から断続的にフランス、スイス、カナダ、米国、そして国内の雪崩関連の視察を行った結果、日本の状況を改善にするのに最適なシステムとプログラムが稼働していたのがカナダでした。その特徴は、現場プロフェショナルの情報共有と教育がリンクしていることでした。これを踏まえ、JANではレクリエーショナル・ユーザーを含めた形で全体の絵を描き、各種活動をしています。参考: コンセプト・ダイヤグラム